上海の不動産暴騰スパイラル
上海郊外。この建物にエレベータはない。下水の臭いが漂うほの暗い階段を登ってゆく。 塗装が剥がれ落ち、乱雑に書かれた電話番号や宣伝が貼られている壁が、まるで廃墟のような雰囲気を醸しだしている。 足を止めると、途端に真っ暗闇に包まれる。その度に、地面を蹴飛ばして音を響かせ明かりをつける。 中国の集合住宅によくある音感知型ライトだ。
扉を開け部屋に入ってみる。階段通路に比べれば小奇麗な感じではあるが、昭和時代のような古びた部屋。 築25年程度とのことだが、築100年でも驚かない。
それでも、このマンションには6千万円の価値がある。今年に入ってから2千万円高くなった。 案内をしている不動産屋によると、この住宅を購入するには月に2万元のローンを組む必要があるそうだ。 2万元といえば、円安の今は40万円近い金額。年収480万円だとして、そのすべてをローン返済に回す必要がある。
千葉県松戸あたりなら、都心へ20分程度で品質はよく物件価格は3分の1程度。 日本たたき売り状態にくやしさを感じた。日本の優れた物件が上海の廃墟のような物件より遥かに安いなんて。 質や技術という付加価値が、中国のでたらめさに敗北してしまったのだろうか。 上海は異常で、日本は時が止まっている。
中国経済が悪くなってきているので商売は儲からない。 株も暴落したので信用できない。地方都市の不動産なんか上がらないということで、中国全土の金がある人が北京、上海、深センあたりの物件を買い始めた。 買うからまた値上がりするという拡大スパイラルが続いている状況だ。
もはや、中国でまともな商売をやって、一級都市の不動産投資のリターンに打ち勝つ事は不可能ではないのか。 上海に滞在している邦人の、それを言っちゃお終いよという話に中国に初めて来たとき商売やらずにマンション買ったほうがリターンが高かったというものがある。 これは、多くの中国人も感じている実感だと思う。
もともとは住宅価格を釣り上げて庶民を馬車馬のように働かせるという戦略なのかもしれないが、馬車馬も働いたら負けということを最近は悟り、住宅価格の値上がりに期待している。
上海のかなり郊外にあるマンション。見かけは綺麗だが中身はボロイ
株でなく地方でなく商売でもなく、とにかく北京、上海、深センの不動産を買うという流れが、一体中国に何をもたらすか。
ガラクタマンションでも作るのには資源がいる。例え無駄になる資源だとしても、安かった資源価格が上昇に転じる可能性があるかもしれない。
中国の待機児童
中国の病院に行くと、女医さんをよく見る。 統計を調べてみると医師の約半数が女性と、20%弱の日本より遥かに女性の割合が高い。 そういえば、路線バスの運転手も女性が多いし、知り合いの中国人はみな共稼ぎだ。
奇妙な話だが、中国では女性が輝く社会がすでに実現されているということになる。
保育園に行く子供は都会のほんの一部で、子供の面倒は夫婦どちらかの親が見るのが当たり前になっている。 親と同居していない場合はどうしているかといえば、子供を実家に預ける。 民工(出稼ぎ労働者)だと、実家に帰るのは春節に一回の場合も多い。 年一回の親の帰りを待って、実家のある村で待機している児童が沢山いる。
そこまでして共働きする理由は二人で稼がないと暮らしていけないという生存環境の厳しさがある。 ひとたび病気になれば大金が必要とか、老後の保障が何もないとか。 つまり、生き残るために必要だから共稼ぎをやっているわけで、そこから子供の処遇を含めたすべての行動が始まっている。
中国という現実からわかることは「女性が輝く社会」は生存環境が厳しくなると実現するということ。 逆に日本の場合は生存環境が緩いから実現していないとも言えるだろう。
「公共の保育園に入れない」が日本では「待機児童」とされている。 もし待機児童をゼロにするとしたら、現在民間施設を利用していたり、そもそも利用していない潜在的な利用者の親も公共施設に行かせる。 公共施設のほうが安くて施設も充実。バックが国で安心。民間施設を使う理由が全くない。
公共施設のほうが優れている理由は単純に税金が投入されているから。 もし、税を投入せずに子供を預ける親にコストを全部回せば待機児童問題は無くなるのではないだろうか。 親も自分の収入と相談して、自分でみるか、親に預けるか、ある程度安い民間に入れるか、高コスト体質の元公共施設に入れるかという選択になるから。
公共施設で待機児童ゼロということは損得勘定抜きだから最適化は起こらない。つまり競争力が低下する。 老人に3万円ばら撒くより待機児童に資源を投入したほうが価値があるとおもうが、行政が何でもやるというのは無理があると思う。
隣に中国という大国があり、中国を含めた世界中の国との経済競争して日本は生活している。 その競争に負けた場合の「悲惨」を日本の人々は忘れてしまったのかもしれない。
中国には敗北が持つ生々しい恐怖が今も存在し、必然として中国の「待機児童」は生まれ、日本やアメリカとの激烈な競争に挑んでいる。 彼らは勝利するつもりだ。勝ってより豊かになるつもりでいる。
日本の「待機児童」の親に迎撃準備は出来ているのだろうか。日本の知恵が試されているわけだ。 知恵を必死に絞っているから、中国より今のところ生活水準が高い筈だから。
中国ねこ事情。上海で猫を飼う①
14年の夏。上海。気温が上がらずひんやりとした夏で、例年のような蒸し暑さはまったくなかった。 マンションの庭に白黒の子猫が居た。誰かが餌をやっているのかプラスチックの皿がある。冷夏の雨で水が溜まりキャットフードがふやけている。
子猫を人が通るたびにその横を歩いてニャーと鳴いている。生後一ヶ月くらい。捨て猫だ。 中国でも捨て猫が多い。餌をあげる人もいるから、そのまま大人になってマンションの庭を縄張りにした野良猫も数匹見つけた。
上海は餌がもらえたとしても猫にとって住みやすい土地とは言えない。 マンションの庭は増加する車の駐車場と化していて、人間を押しのけて車が走っている。 まして猫など完全無視で、マンション内の道でひかれてしまった猫のしかばねを見ることもあった。
餌をあげたりする人も居る。でも、拾って飼うとなると話は別だ。 それでも、イヌを飼っている人がいたりするので、誰か拾う人が居るかもしれないと思ったが、いつまでたってもその白黒は居た。
歩いていると、その子猫はいつも寄ってきた。 私は、この国の人間じゃないし、飼えないと思って通り過ぎようとした。 そんな通り過ぎを何度かやっているうちに、別の猫が車に引かれたらしく道に横たわっていた。 マンションの住人らしき若い夫婦がその猫を横の芝生に移していたが、もはや虫の息で間もなく息絶えた。
知り合いが田舎に連れて行ってもよいというので、遂に白黒猫を部屋に持って帰る。 汚いのでフロで洗ってノミを取る。
猫を飼うときに役に立つのがネットショップだ。 タオバオには猫餌でも猫トイレでも、必要なものはなんでも揃っている。 海外製の餌や日本向けに輸出されているトイレの砂なんかもあったので買いそろえた。
続く。
内陸へ1200Km 中国の村の人々が信じていること
春節を迎えた中国の寒村。人影のない小道と経年で変色したコンクリート製の家がうらぶれて寂しい。それでも村は一年でいちばん人口が多い。
民工として外で働いた人々が帰省し、寒いから家にこもって麻雀の最中。白酒飲んでワイワイやっている。
村には不似合いな全自動麻雀卓。ある家が導入したら、面子でほかの家も次々に導入され、あっという間に村スタンダードになったという。
面子とまだまだ稼げるという自信からか、豊かではないはずなのに数千元単位(数万円)の金が飛び交っている。人生設計はいっさい要らない、今やりたいからやる。それだけだと金を賭け続ける。
一晩で数十万円負ける人も出てきた。いいんだ又、勝つときもあるという。
年金も健康保険も生活保護も存在しないこの世界で、明日は今日より良いという実感と面子だけを頼りに猛烈に消費する。死ぬときは死ぬから未来を考えても仕方がないという潔さと諦めが数千年続いているのだろう。
村に最近できた高速道路。春節前はちょっと混んでいた。出稼ぎ先の広東から長距離を走って帰省する人が増えている。車を手に入れることは、故郷へ錦を飾ること。
ある民工の人がアウディを買って村に帰省した。20万元以上したという。未来の保証が何もない中で何故買えるのかと考えてしまう。それは未来は悪そうと延々と考え続けている国の考え方なのかもしれない。
年金、健康保険、生活保護が存在しないのは元からだし、高級車が買えるようになったのだから、以前より確実に豊かになってきている。
素朴に疑うことなく今後はもっと豊かになると信じている。
今後は中国の村にも「今思考」ではく「年金、健康保険、生活保護」的な「未来思考」が広がるのだろうか? だとしたら中国が大きく減速するのは目先の株とか不動産じゃなくて、その時だ。
まずはブラック商材から。脱タオバオの流れ
アリババ一強の中国EC業界に、最近ちょっとした変化が。 欲しい商品がタオバオやTmallに無く、商品を掲載すると運営に削除されるのが背景にある。
どんな商品かといえば、ニセモノ、工場流れ品、医薬品などのブラック商材。 削除しても需要は消えないし、売り手からすれば最も利益率の高い商品群だ。
怪しい商材はタオバオの華だったはずが、最近は脱ニセモノの流れで削除される。 運営担当に何か払えば何とかなるのかもしれない。そんなコンサルが杭州には沢山あるという話も。
ニセモノ品摘発が恣意的で、同じ商品でも売れない店が削除され、流行りの店が平然と営業しているとか。 裁量という力(どの店の商品ページを消すかというもの)があれば、怪しくなるのが中国の性ともいえる。
だから、売る側も単純で効率のいい方法に移行しつつある。
それが、タオバオ抜き微信直取引。(微店ではない)
その仕組みは、まずはタオバオの客と微信友達になる。すると客はタイムラインでタオバオ店には置いてない商品にアクセスできるようになる。 支払いは微信支付でOK。微信の性質上ネット上の秘密販売クラブのような趣だ。
15年9月開店 Tmallのマツモトキヨシのその後
中国でもマツモトキヨシの知名度は高い。黄色と黒の看板が目につき、他のドラッグストアより覚えやすいと知り合いの中国人。
日本の爆買い報道でもわかるように中国人にロックオンされた代表的な爆買対象の企業ということになる。これなら、中国のECプラットホームに出店すれば大成功するのではないか? そんな、爆買い熱を受けマツキヨは15年9月に中国Tmallグローバルに出店した。
で、その後どうなった?
Tmallではどの商品が何個売れたか第三者からでも分かるので、スタートした去年9月から1月分を集計してみた。 上位20件はこんな感じ。
9月から1月半ばまでの総売り上げがTmallの数字だと2千万元、現状のレートが17.3だから、3億4千万円程度。
商品名のところにある「日本直邮」は日本から中国へ国際郵便EMSで送る。「保税仓发货」は中国国内の保税倉庫から送る方法。
通常の輸出なら課税されるが、EMSは素通りなら税額はゼロ、保税倉庫発なら関税のみ50元以下は無税なので、こちらも高額な商品でなければゼロの場合が多い。
このように安く売る努力をしているのが分かる。実際、商品の価格をみると一月に最も売れた「保税直达豆腐の盛田屋日本豆乳面膜 水洗补水保湿美白去黄气150g」(豆腐の盛田屋ヨーグルトパック 150g)という商品なら、現在95元(一月は90元)=1643円(送料税込)。日本のアマゾンだと1600円(送料税込)で販売されているから中国でも日本でもほぼ同じ価格だ。
でも、新事業、しかも中国相手というリスクを取って日本と同じ値段にしかならないのだから結構大変そう。
中国での通販なら、その返品率が日本とは比較にならないほど大きい。中国進出不要のはずのTmall国際でも中国国内に返品用倉庫の設置を求めている。また、日本のアマゾンと違って、必ずスカイプみたいなチャットで問合せが来るので対応人員のコストもかかる。
このあたり、越境ECでやろうとする会社は現地に法人がないので必ず丸投げせざる得ない。サイト制作、受答え、保税倉庫、返品倉庫(物品を置いておけば保管料を取られる)をパッケージ化して請け負う会社がある。それとTmallの補償金や年会費、システム利用料が入る。そして、忘れてはいけないのがEMSやコンテナ輸送などの物流費で結構コストがかさむ。
マツキヨみたいな店の場合、日本での爆買いの場合は利益率の高いOTC医薬品を神薬12みたいに大量に買ってくれるから、利益率の低い商品があってもいろいろ調整できるけどTmallでは規制があるので薬は販売できない。
日本と同価格じゃなくて値上げできればいいが競争相手が沢山いるから難しい。
つまり、中国の越境ECスキームの場合、確実に儲かるのはオペレーションを行う中国側企業ということになる。マツキヨさんは儲かっているのか?
爆買いの延長ではない越境ECを模索する必要がある。ドラッグストアに爆買い中国人がいるからと言って、単純に越境ECに突っ走るのはどうなんでしょうか。
中国元も下落傾向だし、薄皮一枚の利益が為替変動で消し飛ぶ可能性もあるから、ブームに乗るのではなく冷静に。爆買が話題になって、たったの2年。一呼吸置いてから越境に打って出るか考えた方が得策。
そもそも、アウトバウンドでの中国人相手の商売は難しい。越境にかける資源をインバウンドに向けたほうが得な場合もある。ホームの方がやり易いですから。
もちろん。バンバン儲かっているところは別です。