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格差は是正されトリクルダウンは成功しました。その成果は中国で確認できます

最近どこも格差社会らしい。

アメリカは上位20%が富の8割を持っている超格差社会だからトランプさんとかサンダースさんが大人気だし、一億総中流と言われた日本も格差拡大しまくっているらしく、最近はその話題に事欠かない。

世界的に見れば、恐るべき事に上位62人と下位36億人の資産が同額とか。何たる格差社会だろう。ということで、その62人を締め上げて財産を没収! そして、それを下位36億人に配れば彼らの所得は倍になる? 格差が小さくなって、めでたし、めでたし。これで世界は平和に‥‥なるわきゃないよね。

さて、最近、中国のお金持ちの消費行動を直接的に知る機会があった。 彼らは中国の勝ち組。企業をいくつも経営していて、多分、恐ろしい程のカネを持っている。

その彼らが、日本で購入したものは何か? それは、マツモトキヨシで売っている健康食品とか、じゃがポックルとかだった。実に普通のモノを購入しているわけで、金持ちだからといって人間なんだから出来ることには限界があると感じた。余裕で買えるとしても、じゃがポックルを一度に1000箱食べ尽くすことは難しいようだ。

62人が36億人分の食料をすべて食べ尽くすことなど出来はしないし、物理的にそれだけの食糧生産力もないのだから、もし下位36億人の所得が倍になったとしても、下位に置かれた人々が2倍の食べ物にありつくことはできやしないのだ。

所詮、金持ちの資産なんてコンピューター上の数字に過ぎず、実体はないのだから、それを分配することなど、そもそも出来るはずもないと思う。例えば国債。金持ちが持っていれば当面必要ないから換金しないけど、貧乏な人が持ったら速攻換金に走って、その時点で価値がゼロになる。株も同じで、一斉に換金したら暴落だ。最も端的なものは、データだけのビットコイン。あれも皆が換金したら、だたの無価値なデータに逆戻り。

南極の氷が溶けないことを前提として今の世界があり、一旦それが溶け出したら恐ろしい大災厄を世界にもたらすように、金持ちの金融資産もそれが実体経済に大きくリンクをすれば、インフレや環境負荷の増大など、大きな災厄をもたらすことになるはずだ。

カネ持ちのカネは浮世離れしているからこそ価値があり、それによって世界が成立しているわけで、単純にそれを召し上げて配れば問題が解決するというのは物凄い単純な思考だと思う。昔から格差拡大の話から、そんな論調の話がよく出てくるが無意味過ぎる解決法だ。

さらに、カネ格差とモノ(サービス)格差は分けて考えないといけない。カネ格差は「果ての国(バーチャル)」の出来事で、モノ格差は「月並みの国(現実)」の出来事。カネというバーチャル世界では、どんどん格差は開くけど、モノというリアルな世界では、一度にじゃがポックル1000箱食えないように、それほど開かない。

当たり前の話だけど、生産力にも消費力にも限界があるからだ。数字だけを見て判断するからおかしくなる。だからこそ、カネ格差が少なかったはずの昔より、今の新興国の人々は、ずっといい暮らしをしていたりする。

不思議な話だが、カネ格差は広がっているけど、モノ格差は小さくなってきているということ。現実に生きる我々にとって、より重要なのは、モノ格差の是正だと思う。そして、現実世界ではモノ格差是正が起こっているのだから、必ず何かの大きな影響を上位層と下位層の両面に与えることになるはず。

その影響が端的に表れている中国の話をすると、20年前、中国をはじめとした新興国はあまりモノを持っていなかったのだけど、最近は様々なモノで溢れている。

私の場合、中国の都会から農村部まで歩く機会があったので色々と見聞きしたけど、農村でもけっこう車が走っていたり、トラクターがあったり 液晶テレビや冷蔵庫があったりと、日本とのモノ格差が縮小しつつあることがわかる。

中国の人々が持っているモノが何製かといえば、もちろん中国製。これらは中国の農村の人々が都会の工場へ行って生産したものだ。元々は、上位層の先進国へ輸出するために様々なモノを生産し、富を蓄えることによって自分たちが作ったモノを買えるようになったわけだ。

逆に仕事が新興国に流れた先進国側では空洞化が起こり、職が無くなることになる。バーチャルな世界で自分探しをしていた中国が、いつの間にか普通に働くようになり、国際競争力を持ってしまったから、先進国と中国という大きな枠では格差は縮小に向かい、先進国内では格差が拡大するという逆の現象が生じることとなった。

トリクルダウンは確かにあった。ちゃんと結果にコミットしている。ただそれは先進国国内の下位層ではなく、もっと下位に位置する海外の人にその恩恵をもたらしていた。

カネというバーチャル世界の勝ち組である金持ちをやっつけても格差は解消しないし、先進国で格差が広がっているのは大きな格差是正の結果にすぎないという結論になる。先進国は失われたモノを取り戻そうとし、新興国も先進国との差は当然埋められて然るべきだと考える。

その結果、「偉大なアメリカを取り戻す」とか、「日本を取り戻す」とか、「中華民族を復興する」とか、各国政治家の主張が「失われたものを取り戻す系」ばかりになっているのは、この格差是正の流れによるもので、決して偶然ではない。

あるいは、先進国側での「最近格差が広がったから格差是正せよ」というスローガンも、失われたものを取り戻すという意味だから全くの同類思考。失ったものは、取り戻したいというのが人情だとはおもうけど。

そんなことをいくら言ったところで、人権やらなにやらといった概念を否定して、身分制(先進国国民を貴族にする)とか奴隷制にしないかぎり真の格差是正の流れは止められないし止まらない。

先進国だった日本はといえば、どちら側といえばこの格差是正で損をする陣営。そしてその損は「失われたもの」じゃなくて、「今までが貰いすぎだったのが格差是正で正されただけ」と考える必要がある。

カネと同じように「果ての国」属している人権も、先進国ではその富を背景として野放図に拡大してきたけれど、全人類に先進国の基準を当てはめることは難しそうだ。

最近、難民を受け入れに難色を示しだした欧州諸国の例がそれを端的に物語っている。現実は人権のようなバーチャルなものではないから、無限に拡大していくことが不可能だからだ。上位層だった先進国は、真の格差是正によって富を失い、今後この部分に今までにない妥協を突き付けられることになると思う。

トリクルダウンとか格差是正でおこぼれがありそうだなんて考えている先進国の人は、それらの言葉の本当の意味と現象に目を向けて、次の行動に移った方がいい。

唯一、「技術」によって全体の総和が増える可能性は高いから、政治家や知識人のいう「格差是正や取り戻す」に乗せられて騒ぐよりも、普通に働いて、技術で一体何ができるかを真剣に考えることぐらいしか有効な行動はなさそうだ。

それでも、先進国の人なら誰もが新興国の人よりも良い生活ができるかは疑わしい。そんなことは、新興国後進国の人々もやっているから、彼らとの競争が待っている。