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クールじゃないクールジャパン機構が、中国で進める巨額投資案件とは? 追記版

クールジャパン機構…名前に比べてその中身は、私物化が進んでいる感じなんですね。クールジャパン機構の会長が自らが取締役を務める会社に投資していると政治家の方がブログや国会で指摘されています。 http://blogos.com/article/108819/

他の投資案件はどうなっているのでしょうか? 興味が出てきました。 このブログの性質上、機構の投資案件中で最大の投資案件「中国(寧波市)におけるジャパン・エンターテイメント型の大規模商業施設事業へ出資」に目が留まりました。

 

概要は以下の通り エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社(以下、H2O)(大阪府大阪市代表取締役社長:鈴木篤)、杉杉集団有限公司(以下、杉杉集団)(中国 浙江省 寧波市、代表者:鄭学明)を中心とするコンソーシアムとの寧波市(中国 浙江省)における大規模商業施設事業(寧波市で進行中の大規模な都市開発プロジェクト「東部新城開発」の中心地)に関し、110億円を上限として出資することを決定しました…とある。

延べ床面積は約16万平方メートル(400m×400m 東京ドーム約3.5個分 蘇州の久光くらい)。 地上6階、地価1階の計画。 地下鉄2路線の駅に隣接。 開業時期2018年春を予定。 H2O&クールジャパン機構の寧波開発株式会社が70% 杉杉集団&伊藤忠の寧波都市房産開発有限公司が30% の出資比率で寧波阪急商業有限公司という合弁会社を作って運営。

ITOHPIAENT Investment Co.,Ltdと言う会社は、伊藤忠関係の香港法人だと思われます。 杉杉集団有限公司と言う会社は、伊藤忠が28%の株式を保有する中国の会社ということです。

寧波都市房産開発有限公司の持ち株割合は ITOHPIA ENT Investment Co., Ltd. 60.0% 杉杉集団有限公司 40.0% つまり、出資比率を見る限り、プロジェクトスキーム図では伊藤忠は日本側に書かれていますが、ブルーの中国側に関係が深いわけです。

日本関係を除いた純粋な中国側の資本を計算すると9%以下だと思われます。もし「土地使用権のような現物出資」の場合、彼らの出資分より土地使用権の方が高ければ合弁会社の借入金になります。コレちょっと気になる部分です。 0.3×0.6=0.18(ITOHPIAENT Investment Co.,Ltd分) 0.3×0.3=0.12(杉杉公司分)0.12×0.72=0.0864(伊藤忠出資分28%を除く)

概要の引用元 http://www.cj-fund.co.jp/files/press_140925-5.pdf https://www.h2o-retailing.co.jp/news/pdf/2014/140925chaina.pdf

この案件自体も、機構を構成する株主の事業だと指摘されています。機構に出資した以上に投資を受けているので、増えた部分は税金なんだろうけど、投資案件なのだから儲かってそれ以上に返してくれればいいわけです。以下、この案件が儲かりそうなのかどうかを見てみます。「本当に儲かるなら企業が勝手にやるでしょ!」とか「中国側がもっと金出すはず」 なんてことを言ってはいけません。

 

ビジネスモデルについて ビジネスモデルは、中国のニュータウンに巨大商業施設を作って、そこで日本食日本製品を売るという事のようですが、これの雛形みたいなものは上海にも沢山あります。

例えば、南京西路の日系デパートとか、古北の日系デパートとか。豫園の日本のラーメン屋を集めた店(潰れた)とか。 来日中国人の爆買からすると拍子抜けしてしまうのですが、それらの商業施設は、全く流行っているようには見えません。

理由は高いから。日本で爆買しているのは安いからですよ。

巨大都市上海の中心地ですらコレです。 この事業をすすめているということは、寧波市のニュータウンには、デパートで販売されるような高額日本製品に需要があるという、特別なデータでもあるのでしょうか?

普通、日本製品が欲しいにしても、中国人はサクっとネットで買うでしょう。 110億円も投資したコストがダイレクトに跳ね返るデパート価格より、ネットの方が安いですし、いつどこでも買うことが出来るのですから。 商業施設に行くにしてもネット購入前の下調べ程度のものです。日本人のように試着したから買ってくれるとか甘くはありませんし、売り子も微信とかやっていて売る気があまりありません。

このような中国人の買い物パターンからすると、ここに出店したとしても、日本の税金で補てんするのかもしれませんが、個人が作ったタオバオ店よりも利益が少ないような気がします。

需要がないハコ物よりネットショップのTmallやタオバオの方がマシというわけですね。 どうしてもハコ物を作るなら、地方のニュータウンよりも、空きが多い上海中心部に実体店を作ったほうが合理性がありそうです。

 

場所について 寧波市の東部新城という場所で、大規模な開発が行われているようです。中国の新城らしくだだっ広い。

以前からこの地域で開発を行っていた、杉杉集団&伊藤忠の寧波都市房産開発有限公司は、進出企業が決まったので損はしない状況になったと思われます。彼らの場合、現金ではなく不動産による現物出資の可能性も否定できません。

最近は、新城を開発しても企業を誘致するのが大変そうですから。そこで、クールジャパンをお題目に誘致Getと言った感じでしょうか。 商売がうまいですね。中国現地企業と違って、クールジャパンさんは金払いもよさそうだし。

この新城というものは日本でいうところのニュータウンのことで、中国全土で、市民や農民から土地を安く買い叩いて開発した上で、高く売るという地方政府の錬金術(地上げ)が行われています。 このパターンで中国は高度経済成長をしてきましたが、最近は成長が減速して地上げに失敗する場合も多く、上海のような都市部ですら新城ならぬ鬼城(廃墟)になる場合もあるようです。 したがって、誘致合戦は熾烈です。

鬼城と化したショッピングモール。多かれ少なかれ、中国にはこんな感じの場所が多いです。というか、こういう場所を安く買いたたいて、日本の店を入れた方が手っ取り早いし投資額も少なくて済みそうです。このビデオの場所のモールは郊外すぎるので、上海の打浦橋のあそことか。豫園のあそことか。。松江あたりなら、色々ありそうです。

 

運用について こうして作ったハコものを何に使うかと言えば、当然ショッピングモールなんだけれど、プレスリリースを読むと、このショッピングモールは、こんな感じで中小企業のためですよ的なことも書かれている。 クールジャパンを体現し海外展開を図る中堅中小企業に対し、株式会社日本政策金融公庫の「海外展開資金(クールジャパン関連)」による融資や株式会社商工組合中央金庫の「成長・創業支援プログラム」による融資などの関係機関の枠組みを紹介するなどして、本プロジェクトに参画する中堅中小企業を積極的に支援してまいります。 つまり、大企業には110億円「出資」して税金・政府責任でやらせるが、中小企業には「融資」してやるから自己責任で出店しろということですね。なかなか面白いスキームですが、儲かってファンドが潤うといいですね。 この投資姿勢を見る限り、日本製品を売るという目的そのものよりも、ハコ物と言う手段を重要視していることがわかります。 ハコが無いなら、ハコを作ることにも合理性はあるとおもいますが、 ハコは沢山空いています。

なら、「クールジャパンを体現し海外展開を図る中堅中小企業」に直接を出資をして、今も沢山空きがあるショッピングモールに出店してもらった方が、日本製品を売るという目的のためには今すぐ実行可能だし合理的です。

中国が目まぐるしい変化を遂げているなか、東部新城モールが完成する3年後までわざわざ待っていたら、別のブランドに市場を取られそうですし、本当に中国で売れるモノなら3年間で実現可能な売上と利益をみすみす捨てるという話になります。 本当にこれ成長戦略なんでしょうか? もちろん、合理的な戦略を取らないのは「大人の事情」があるのでしょうけど。

 

結論 お偉いさんが、日本で会議を重ねて厳しく査定した上でのことでしょうし、何か特別な勝算があるのかもしれません。 従って、クールジャパン機構の中国ハコ物に需要があるかは、2018年に開業すればわかるでしょう。 「その金、全部余額宝に入れておいた方がいいんじゃね?」とか、「ネットでやれ」とか言ってはいけません。 そんなわけで、完成したら是非行ってみたいと思います。どんな感じになるか今から楽しみですね。

次世代の「情報大航海プロジェクト」とか、明日の「シグマプロジェクト」のようにも見える「クールジャパン機構」。 この実績からすると、過去に行われたキラ星の如く輝く先輩プロジェクトに、星となって肩を並べる日も近いのではないだろうか。